大学の一般教養経済学科目試験時代から因縁・腐れ縁のIS-LM分析でした。
空振りに耐える。
貨幣市場とIS-LM分析
問題 1 貨幣市場 【平成23年 第4問】
貨幣市場に関する説明として最も適切なものはどれか。
ア 古典派の貨幣数量説では、貨幣需要は投機的需要のみであると考える。
イ ハイパワードマネーは、公定歩合の引き下げ、売りオペによって増加する。
ウ マネーストックのうちM1は、現金通貨と預金通貨から構成される。
エ 流動性選好理論では、貨幣市場において超過需要が発生する場合、債券市場も超過需要の状態にあり、それは利子率の上昇を通じて解消されると考える。
古典派の貨幣数量説では、投機的需要は考慮されていません。
ハイパワードマネーは、買いオペによって増加します。
「M1」とは、現金通貨と預金通貨の合計です。
流動性選好理論では、貨幣市場において超過需要が発生している場合では、人々は債券ではなく、安全で便利な貨幣を持とうとしていると考えられます。よって、債券は超過需要ではなく超過供給の状態となります。
金融政策とマネーサプライ 【平成24年 第8問】(設問1)
金融政策およびマネーサプライ(マネーストック)に関する下記の設問に答えよ。
(設問1)
金融政策に関する記述として、最も適切なものの組み合わせを下記の解答群から選べ。
a 貨幣の供給メカニズムで中央銀行が直接的に操作するのは、マネタリーベース(ハイパワードマネー)というよりも、マネーサプライ(マネーストック)である。
b 市中銀行の保有する現金を分子、預金を分母とする比率が上昇すると、信用乗数(貨幣乗数)は上昇する。
c 市中銀行から中央銀行への預け金を分子、市中銀行の保有する預金を分母とする比率が上昇すると、信用乗数(貨幣乗数)は低下する。
d 信用乗数(貨幣乗数)は、分子をマネーサプライ(マネーストック)、分母をマネタリーベース(ハイパワードマネー)として算出される比率のことである。
[解答群]
ア aとb
イ aとd
ウ bとc
エ cとd
マネーサプライは、市場全体の現金と預金を合計したものです。マネーサプライがハイパワードマネーの何倍になるかを表した数字を貨幣乗数(信用乗数)と言います。
現金預金比率が上昇すると、信用乗数は低下します。
「市中銀行から中央銀行への預け金を分子、市中銀行の保有する預金を分母とする比率」とは、法定準備率のことです。この法定準備率が上昇すると、信用乗数の式より、信用乗数は低下することが分かります。
信用乗数(貨幣乗数)は、分子をマネーサプライ、分母をマネタリーベース(ハイパワードマネー)として算出される比率で表せます。
マネタリーベース 【平成29年 第7問】
2016年9月、日本銀行は金融緩和強化のための新しい枠組みとして「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を導入した。この枠組みでは、「消費者物価上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続する」こととされている。
マネタリーベースに関する記述として、最も適切なものの組み合わせを下記の解答群から選べ。
a マネタリーベースは、金融部門から経済全体に供給される通貨の総量である。
b マネタリーベースは、日本銀行券発行高、貨幣流通高、日銀当座預金の合計である。
c 日本銀行による買いオペレーションの実施は、マネタリーベースを増加させる。
d 日本銀行によるドル買い・円売りの外国為替市場介入は、マネタリーベースを減少させる。
[解答群]
ア aとc
イ aとd
ウ bとc
エ bとd
金融部門から経済全体に供給される通貨の総量をマネタリーベースとしていますが、正しくはマネーサプライです。
マネタリーベースは、日本銀行券発行高、貨幣流通高、日銀当座預金の合計です。
ドルを市場から買って、円を市場へ売る、つまり流通させることになります。従って、マネタリーベースは増加します。
金融政策とマネーサプライ 【平成24年 第8問】(設問2)
金融政策およびマネーサプライ(マネーストック)に関する下記の設問に答えよ。
(設問2)
日本銀行が公表しているマネーサプライ統計は、2008 年に、マネーストック統計へと見直しが行われた。この見直しに関する説明として、最も適切なものはどれか。
ア 証券会社が保有する現金通貨が、M1 に含まれることになった。
イ ゆうちょ銀行への要求払預金が、M1 に含まれることになった。
ウ 預金取扱機関が保有する現金通貨が、M1 に含まれることになった。
エ 預金取扱機関への定期性預金が、M1 に含まれることになった。
郵政民営化によって、ゆうちょ銀行の通貨も含めて統計を見直しすることになりました。現在のマネーストック統計では、M1 にはゆうちょ銀行の預金通貨が含まれています。
IS曲線とLM曲線 【平成21年 第8問】(設問1)
次のIS-LM 分析に関する文章を読んで、下記の設問に答えよ。
下図は、生産物市場の均衡を表すIS 曲線と、貨幣市場の均衡を表すLM 曲線を描いている。
まず、生産物市場の均衡条件は
Y=C+I+G
で与えられる。ここで、Y:GDP、C:消費支出、I:投資支出、G:政府支出である。
消費関数は、
C=C0+c(Y-T0)
であり、C0:独立消費、c:限界消費性向(0<c<1)、T0:租税収入(定額税)である。
また、投資関数は
I=I0-ir
であり、I0:独立投資、i:投資の利子感応度、r:利子率である。
さらに、政府支出は与件であり、G=G0 とする。
この結果、IS曲線は
として導出される。①この式はIS曲線の傾きや位置を示すものである。
次に、貨幣市場の均衡条件は
M=L
である。ここで、M:貨幣供給、L:貨幣需要である。
貨幣需要関数は
L=kY-hr
で与えられ、k:貨幣需要の所得感応度、h:貨幣需要の利子感応度である。
また、貨幣供給は与件であり、M=M0 とする。
これらから、LM曲線が導出され、
として示される。②この式はLM曲線の傾きや位置を表している。
(設問1)
文中の下線部①について、IS曲線の特徴に関する説明として、最も適切なものの組み合わせを下記の解答群から選べ。
a IS曲線より右側の領域では、生産物市場は超過供給の状態にある。
b 限界貯蓄性向が大きいほど、IS曲線はより緩やかな形状で描かれる。
c 政府支出の拡大と増税が同じ規模で実施された場合、IS曲線の位置は変わらない。
d 投資の利子感応度が小さいほど、IS曲線はより急な形状で描かれる。
[解答群]
ア aとb
イ aとc
ウ aとd
エ bとc
オ cとd
IS 曲線よりも右上の点では、財市場が供給超過になっています。
IS 曲線よりも左下の点では、財市場が需要超過になっています。
限界貯蓄性向が大きいほど、IS曲線の傾きは急になります。
増税の場合は、政府支出の増加に比べると、乗数効果は小さくなり、政府支出の拡大と増税が同じ規模である場合、IS曲線は右にシフトすることとなります。
投資の利子感応度、つまり投資の利子率弾力性が大きいほど、投資関数の傾きは緩やかになります。
投資の利子率弾力性が小さいほど、投資関数の傾きは急になり、IS 曲線の傾きも急になります。
(設問2)
文中の下線部②について、LM曲線の特徴に関する説明として、最も適切なものの組み合わせを下記の解答群から選べ。
a LM曲線より下方の領域では、貨幣市場は超過供給の状態にある。
b 貨幣供給の増加はLM曲線を上方にシフトさせる。
c 貨幣需要の利子感応度が大きいほど、LM曲線はより緩やかな形状で描かれる。
d 貨幣需要の利子感応度がゼロの場合、LM曲線は垂直に描かれ、GDPの水準は貨幣市場から決定される。
[解答群]
ア aとc
イ aとd
ウ bとc
エ bとd
オ cとd
LM 曲線よりも上の点では、貨幣が供給超過になっています。
LM 曲線よりも下の点では、貨幣が需要超過になっています。
貨幣供給量が増えると、貨幣供給曲線は右にシフトします。
貨幣供給量が減った場合は、貨幣供給曲線は左(上方)にシフトし、LM 曲線も左にシフトします。
利子率弾力性が大きいほど、貨幣需要曲線の傾きは緩やかになります。貨幣需要曲線の傾きが緩やかになると、LM 曲線の傾きも緩やかになります。
貨幣需要の利子率弾力性が小さいほど、貨幣需要曲線の傾きは急になり、LM 曲線の傾きも急になります。
貨幣需要の利子感応度がゼロになると、LM 曲線は垂直になります。
IS曲線とLM曲線の形状とシフト 【平成24年 第9問】
IS-LMモデルでは、横軸にGDP、縦軸に利子率をとり、IS曲線とLM曲線を描く。IS曲線とLM曲線の形状とシフトに関する説明として、最も適切なものはどれか。
ア GDPが増えると貨幣の取引需要も大きくなることから、貨幣市場の均衡利子率は低くなり、LM 曲線は右上がりに描かれる。
イ 貨幣供給量を増やすと、貨幣市場を均衡させる利子率が低下することから、LM曲線は上方向にシフトする。
ウ 政府支出を拡大させると、生産物の供給も拡大することから、IS曲線は右方向にシフトする。
エ 利子率が高い水準にあると投資水準も高くなると考えられることから、生産物市場の均衡を表すIS曲線は、右下がりに描かれる。
オ 流動性のわなが存在する場合、貨幣需要の利子弾力性がゼロになり、LM曲線は水平になる。
GDPが増えると貨幣の取引需要が大きくなることから、貨幣市場の均衡利子率は高くなります。
貨幣供給量を増やすと、貨幣市場を均衡させる利子率が低下することから、LM曲線は下方向にシフトします。
政府支出を拡大させると、有効需要の原理により、生産物の供給は拡大すると、IS曲線は右方向にシフトします。
利子率が高い水準にあると、投資は利子率の減少関数ですから、投資水準は低くなります。
流動性のわなが存在する場合、貨幣需要の利子弾力性が無限大になります。ゼロではありません。
財政政策 【平成27年 第6問】
拡張的な財政政策、たとえば政府支出の拡大は、下図のIS曲線をISからIS′へとシフトさせる。ただし、YはGDP、rは利子率である。下図に関する説明として、最も適切なものの組み合わせを下記の解答群から選べ。
a 政府支出拡大の結果、利子率の上昇によって投資が減少するため、GDPはY1となる。
b E2では、貨幣市場において、貨幣の超過供給が発生している。
c 「r1 - r0」で表される利子率の上昇は、政府支出拡大による、貨幣の取引需要増加の結果生じた。
d 「Y1 - Y0」が政府支出の拡大分に相当する。
[解答群]
ア aとc
イ aとd
ウ bとc
エ bとd
政府支出拡大の結果、利子率の上昇によって投資が減少するため、GDPはY1となります。
E2では、貨幣市場において、貨幣の超過需要が発生しています。
「r1 - r0」で表される利子率の上昇は、政府支出拡大による、貨幣の取引需要増加の結果生じたといえます。
政府支出の拡大分の数倍ほどGDPは増加します。
財政政策、流動性のわな 【平成23年 第7問】
経済が「流動性のわな」に陥った場合の説明として、最も適切なものの組み合わせを下記の解答群から選べ。
a 貨幣供給が増加しても伝達メカニズムが機能せず、利子率は低下するが、投資支出の増加が生じない。
b 政府支出の増加が生じてもクラウディング・アウトは発生しない。
c 「流動性のわな」のもとでは、貨幣需要の利子弾力性はゼロになり、利子率が下限値に達すると、債券価格は上限値に到達する。
d 「流動性のわな」のもとでは、GDP の水準は貨幣市場から独立であり、生産物市場から決定される。
[解答群]
ア aとc
イ aとd
ウ bとc
エ bとd
「流動性のわな」とは、利子率がゼロに近くなった場合に、債券の魅力が全くなくなり、誰も債券を持とうとしない現象を表します。「流動性のわな」の状態になると、全ての資産を貨幣で持とうとするため、貨幣の需要は無限大になります。
流動性のわなが生じている場合、利子率はそれ以上低下しないというほど低くなっています。よって、利子率が変化することなくです。
流動性のわなが生じている場合は、クラウディング・アウトは発生しません。流動性のわなが生じている場合、財政政策によってIS 曲線が右方にシフトしても、利子率は上昇せず一定のままです。利子率が上昇しないことにより、民間の投資が減少することもないためです。
流動性のわなが生じている場合、利子率が低下することなく貨幣の需要が無限大となります。よって、利子率弾力性は無限大です。
流動性のわなが生じている場合、金融政策を行っても効果が無く、財政政策が有効となります。よって、GDP の水準は生産物市場によって決定されることになるためです。
財政・金融政策 【平成22年 第6問】(設問1)
分割表示する
次の財政・金融政策の効果と有効性に関する文章を読んで、下記の設問に答えよ。
いま、生産物市場の均衡条件が
Y=C+I+G
で与えられ、YはGDP、Cは消費支出、Iは民間投資支出、Gは政府支出である。
ここで、
消費関数 C=C0+c(Y-T)
C0:独立消費、c:限界消費性向(0<c<1)、T:租税収入
投資関数 I=I0-ir
I0:独立投資、i:投資の利子感応度、r:利子率
とする。
他方、貨幣市場の均衡条件は
M=L
であり、Mは貨幣供給、Lは貨幣需要である。
ここで、
貨幣需要関数 L=kY-hr
k:貨幣需要の所得感応度、h:貨幣需要の利子感応度
とする。
これらを連立させることにより、均衡GDP は
として求められる。
上記の式から、①財政政策(政府支出)の乗数は
である。
また、②金融政策の乗数は
である。
(設問1)
文中の下線部①について、財政政策の効果に関する説明として、最も適切なものの組み合わせを下記の解答群から選べ。
a 貨幣需要の利子感応度が小さいほど、クラウディング・アウトの程度が小さく、財政政策に伴う所得拡大効果は大きくなる。
b 限界貯蓄性向が大きいほど、財政政策の乗数はより大きくなる。
c 投資の利子感応度が大きいほど、クラウディング・アウトの程度が大きく、財政政策に伴う所得拡大効果は小さくなる。
d 「流動性のわな」に陥った場合、財政政策の乗数は1/1-cで示される。
[解答群]
ア aとb
イ aとd
ウ bとc
エ bとd
オ cとd
貨幣需要の利子感応度が小さい場合、LM 曲線の傾きは急になり、貨幣市場が均衡するために必要となる利子率の上昇幅は大きくなります。よって、クラウディング・アウトも大きくなるです。
限界貯蓄性向は、「1-限界消費性向」です。よって、限界貯蓄性向が小さいほど、乗数効果は大きくなるです。
投資の利子感応度が大きい場合、利子率の上昇に対する投資の減少幅が大きくなります。よって、クラウディング・アウトの効果も大きくなるです。
流動性のわなが生じている場合、貨幣市場の利子感応度hは無限大となります。よって、数式のk/hがゼロとなり、乗数は1/1-cとなります。このことは、流動性のわなが生じている場合に、金融政策を行っても効果が無く、財政政策だけが有効となることからもわかります。
(設問2)
文中の下線部②について、金融政策の効果に関する説明として、最も適切なものの組み合わせを下記の解答群から選べ。
a 貨幣需要の利子感応度が小さいほど、貨幣供給の増加に伴う利子率の低下幅が大きく、金融政策の所得拡大効果が大きくなる。
b 投資の利子感応度が大きいほど、利子率の低下に伴う民間投資支出の拡大幅が大きく、金融政策の有効性が高まる。
c 投資の利子感応度が無限大の場合、金融政策の乗数はゼロになる。
d 「流動性のわな」に陥った場合、金融政策の乗数は1/kになる。
ア aとb
イ aとd
ウ bとc
エ bとd
オ cとd
金融政策では、財政政策のようなクラウディング・アウトは発生しません。
貨幣需要の利子感応度が小さい場合、需給を均衡させるためには大幅に利子率を低下させる必要があります。利子率が大幅に低下すると、投資の増加も大きくなるため、金融政策の効果は高まります。
投資の利子感応度が大きい場合、利子率の低下に対する投資の増加が大きくなります。
投資の利子感応度が大きい場合、利子率の低下に対する投資の増加が大きくなり、金融政策の効果は高まります。金融政策の効果があるため、金融政策の乗数はゼロではないことがわかります。
流動性のわなが生じている場合に、金融政策を行っても効果が無く、財政政策だけが有効となります。よって、金融政策の乗数はゼロとなります。
労働市場と主要理論
5% (1問目/19問中)
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問題 1 有効需要の原理、セイの法則 【平成20年 第4問】
次の古典派マクロ経済学に関する文章中の空欄AおよびBに入る最も適切なものの組み合わせを下記の解答群から選べ。
古典派マクロ経済理論では、市場の価格調整メカニズムが万全であり、物価および名目賃金が上下に伸縮的であると考える。このため、労働市場では常に完全雇用が実現し、GDPは完全雇用GDPの水準と一致する。古典派マクロ経済理論では( A )が成立し、( B )サイドからGDPが決定されると主張する。
[解答群]
ア A:セイの法則 B:供給
イ A:セイの法則 B:需要
ウ A:有効需要の原理 B:供給
エ A:有効需要の原理 B:需要
古典派マクロ経済学が提唱したこととの代表的な1つとして、「セイの法則」があります。「セイの法則」とは、「供給はそれ自身に等しい需要を生み出す」という考え方です。
「有効需要の原理」とは、ケインズ経済学によって提唱された考え方です。
有効需要の原理では、GDPは需要側によって決まると考えます。よって、不況の時には需要が不足しているため、政府が積極的に需要を増加させるための政策を行う必要があると考えられています。
効率賃金理論 【平成28年 第6問】
賃金に関する考え方の1つに効率賃金理論がある。効率賃金理論に関する記述として、最も適切なものはどれか。
ア 企業が支払う効率賃金の下で完全雇用が実現すると主張する。
イ 均衡賃金に等しい水準の賃金を支払うことが企業の効率的な生産につながると主張する。
ウ 均衡賃金を超える水準の賃金を支払うことが生産性を高め、企業の利潤を増やすと主張する。
エ 均衡賃金を下回る水準の賃金を支払うことが生産性を高め、企業の利潤を増やすと主張する。
効率賃金理論とは、効率を重視して賃金は決められるため、実質賃金は限界生産力よりも高くなる、すなわち、均衡賃金よりも企業が実際に支払う賃金は高くなると考えるものです。
企業が支払う効率賃金の下で完全雇用が実現するわけではありません。
効率賃金理論とは、効率を重視して賃金は決められるため、均衡賃金よりも企業が実際に支払う賃金は高くなると考えるものです。均衡賃金に等しい水準の賃金を支払うことが企業の効率的な生産につながるというわけではありません。
効率賃金理論では、均衡賃金を超える水準の賃金を支払うことが生産性を高め、企業の利潤を増やすとされています。
均衡賃金を下回る水準の賃金を支払うと、労働者の意欲が低くなり、生産性が低くなってしまします。質の高い労働者は離職するため、採用・訓練のコストがかかり、企業の利潤は減少してしまいます。
労働市場の均衡 【平成30年 第14問】
下図は、労働市場の需要曲線と供給曲線を示している。Dは労働需要曲線、Sは労働供給曲線であり、均衡賃金率はW0である。労働市場における所得分配に関する記述として、最も適切なものを下記の解答群から選べ。
〔解答群〕
ア 最低賃金率をW1 に設定すると、市場均衡と比較して、企業の余剰は増加する。
イ 市場均衡において企業が労働者に支払う賃金は□OBEN0 である。
ウ 市場均衡における労働者の余剰は、△AW0Eである。
エ 労働供給が増加すると、当初の市場均衡と比較して、企業の余剰は増加する。
市場均衡点Eでの企業の余剰は△AW0Eですが、W1では△AW1E1となり、増加ではなく減少していることがわかります。
市場均衡において企業が支払う賃金は、点Eにおける賃金W0×労働量N0となりますので、□OW0EN0です。
労働者余剰は供給側の余剰ですので△BW0Eとなります。
総供給曲線 【平成25年 第5問】
労働のみを用いて生産を行っている企業を考える。この企業が生産物1単位を生産するのに必要な労働量は一定であり、生産物価格と名目賃金率に基づいて利潤が最大になるように生産量を決定する。他方、労働者は、実質賃金率の水準に応じて、労働供給量を決定する。縦軸に物価水準を、横軸に生産量をとり、これら企業と労働者の行動から導き出された総供給曲線を描くとき、その形状として、最も適切なものはどれか。
ア 垂直
イ 水平
ウ 右上がり
エ 右下がり
問題文の「生産物価格と名目賃金率に基づいて利潤が最大になるように生産量を決定する」というのは、この古典派の第一公準のことを言っています。
問題文の「労働者は、実質賃金率の水準に応じて、労働供給量を決定する」というのは、この古典派の第二公準のことを言っています。
したがって、問題文の「これら企業の行動と労働者の行動から導き出された総供給曲線」というのは、古典派のケースの総供給曲線のことを言っており、古典派の総供給曲線の形状は横軸に対して垂直になります。
ケインズ経済学は、古典派の第二公準は認めず、賃金の下方硬直性を仮定しています。したがって、ケインズ経済学の総供給曲線は、物価が低い時は右上がりで、完全雇用を達成した後は横軸に対して垂直になります。
総需要 曲線・総供給曲線 【平成27年 第7問】(設問1)
総需要曲線(AD)と総供給曲線(AS)が下図のように描かれている。ただし、Pは物価、Yは実質GDP、Yfは完全雇用GDPであり、Eが現在の均衡点である。
下記の設問に答えよ。
(設問1)
総需要曲線の右シフト要因として、最も適切なものの組み合わせを下記の解答群から選べ。
a 中央銀行による買いオペレーションの実施
b 政府支出の削減
c 所得減税の実施
d 民間銀行による融資縮小
[解答群]
ア aとb
イ aとc
ウ bとd
エ cとd
(設問2)
総供給曲線に関する記述として、最も適切なものの組み合わせを下記の解答群から選べ。
a GDPが完全雇用水準を下回っても、つまり非自発的失業が存在しても、名目賃金率が硬直的であれば、総供給曲線の形状は右上がりになる。
b GDPが完全雇用水準を下回っても、つまり非自発的失業が存在しても、実質賃金率が硬直的であれば、総供給曲線の形状は右上がりになる。
c 技術進歩が生じると、総供給曲線は下方にシフトする。
d 原油価格が高騰すると、総供給曲線は下方にシフトする。
[解答群]
ア aとc
イ aとd
ウ bとc
エ bとd
GDPが完全雇用水準を下回っても、つまり非自発的失業が存在しても、名目賃金率が硬直的であれば、総供給曲線の形状は右上がりになります。
実質賃金率は、名目賃金率を物価で割ったものですから、名目賃金率が一定であっても、物価が変動すると、実質賃金率は変動するため、実質賃金率は硬直的にはなりません。
技術進歩が生じると、労働生産性が向上するため、生産量が増大することから、総供給曲線は下方にシフトします。
原油価格が高騰すると、中間投入される原材料費が上昇します。すると、コスト高により生産効率が悪化し、生産量が減少することから、総供給曲線は上方にシフトします。下方ではありません。
労働市場と主要理論
問題 7 総需要・総供給分析 【平成20年 第10問】(設問1)
下図は、ケインズ派モデルにおける総需要曲線(AD)と総供給曲線(AS)を描いたものである。ここで、供給サイドにおいては、物価は上下に伸縮的であるが、名目賃金は硬直的であると考える。下記の設問に答えよ。
(設問1)
総需要曲線の説明として最も適切なものの組み合わせを下記の解答群から選
べ。
a 経済が「流動性のわな」の状態にあるとき、総需要曲線は垂直に描かれる。
b 増税は総需要曲線を右方にシフトさせる。
c 投資の利子弾力性が大きいほど、総需要曲線はより急勾配に描かれる。
d 物価の下落は、実質貨幣供給の増加を通じて利子率を低下させ、投資の拡大と総需要の増加をもたらす。
[解答群]
ア aとb イ aとd ウ bとc
エ bとd オ cとd
物価の変化はIS 曲線には影響を与えず、LM 曲線だけ影響を与えます。
物価の上昇は、国民所得の低下と、利子率の上昇をもたらします。
物価が低下すると、均衡国民所得は増加し、均衡利子率は低下します。
よって、均衡国民所得は、物価の減少関数であると言えます。
流動性のわなが生じている場合、国民所得が一定であるため垂直となります。
(設問2)
総供給曲線の説明として最も適切なものの組み合わせを下記の解答群から選
べ。
a エネルギーなどの原材料費の上昇は、総供給曲線を左方にシフトさせる。
b 技術進歩は生産性の上昇を通じて総供給曲線を右方にシフトさせる。
c 人口構成の少子化・高齢化に伴う労働市場の変化は、総供給曲線を右方にシフトさせる。
d 物価の上昇は、実質賃金の上昇を通じて労働需要を増加させ、生産量の拡大を生じさせる。
[解答群]
ア aとb イ aとc ウ aとd
エ bとc オ bとd
エネルギーなどの原材料費が上昇すると、物価や雇用量が一定であっても生産量が低下します。生産量は、国民所得と等しくなるため、国民所得が減少することになります。よって総供給曲線は左にシフトします。
物価水準が上昇すると、実質賃金は低下します。実質賃金が低下すれば、完全雇用の状態に近づくため、非自発的失業が減り、労働需要は増加します。
デフレーションが経済に及ぼす影響 【平成28年 第7問】
デフレーションからの脱却は、日本経済が抱える長年の課題である。デフレーションが経済に及ぼす影響として、最も適切なものはどれか。
ア デフレーションは、実質利子率を低下させる効果をもち、投資を刺激する。
イ デフレーションは、賃借契約における負債額の実質価値を低下させるので、債務を抑制する。
ウ デフレーションは、保有資産の実質価値の増加を通じて、消費を抑制する。
エ デフレーションは、名目賃金が財・サービスの価格よりも下方硬直的である場合には実質賃金を高止まりさせる。
デフレーションの進行はインフレ率(物価上昇率)がマイナスとなりますので、実質利子率を上昇させることになります。実質利子率を低下させるのではありません。
実質利子率の上昇により、債務者にとっては債務の実質的な負担が増大することになります。賃借契約における負債額の実質価値を低下させるのではありません。
デフレーションでは、物価下落による実質資産残高効果、つまり保有資産の実質価値が増加する効果によって、消費を増加させます。
デフレーションが生じると、名目賃金が財・サービスの価格よりも下方硬直的である場合には、実質賃金は高止まり(高値のままで下がらない状態)となります。
自然失業率仮説 【平成27年 第8問】
中央銀行は、名目貨幣量を拡大させる金融緩和政策を実施することがある。この名目貨幣量拡大により、総需要が増加することで、名目賃金率と物価が上昇し始めると、企業側は総供給を増やそうとする。このときの労働者側の短期における行動について、自然失業率仮説の記述として最も適切なものはどれか。
ア 物価上昇は認識せず、名目賃金率上昇のみを認識するため、労働供給量を増やす。
イ 名目賃金率上昇と物価上昇をともに認識し、労働供給量を増やす。
ウ 名目賃金率上昇と物価上昇をともに認識せず、労働供給量を変えない。
エ 名目賃金率上昇は認識せず、物価上昇のみを認識するため、労働供給量を減らす。
自然失業率仮説とは、短期においては、労働者は貨幣錯覚を起こしているが、貨幣錯覚が解消され、期待物価上昇率と現実の物価上昇率が一致をする長期においては、現実の失業は完全雇用に対応する自然失業率に等しくなるという考えかたです。
名目賃金率と物価が上昇し始めた場合、短期においては、労働者は物価上昇を認識せず、名目賃金率の上昇のみを認識していることになります。そして、名目賃金率が上昇すると、労働者は労働供給量を増やします。
自然失業率とは、完全雇用が達成されてもなお存在する失業率のことで、労働市場が均衡しているときの失業率のことをいいます。
労働市場が均衡し完全雇用が達成されているときには、非自発的失業は存在しませんが、自発的失業(自己の意思で失業している、あるいは適職が見つかるまで失業している状態)や摩擦的失業(労働者が転職、労働を供給する際の移動にともなう失業)は存在します。そのため、自然失業率は正の値をとることになります。
労働市場と主要理論
問題 11 需給ギャップ 【平成29年 第5問】
需給ギャップ(GDPギャップ)は景気や物価の動向を把握するための有効な指標であり、マクロ経済政策の判断において重要な役割を果たしている。日本では、内閣府や日本銀行などがこれを推計し、公表している。
需給ギャップに関する記述として、最も適切なものはどれか。
ア オークンの法則によれば、需給ギャップがプラスのとき、雇用市場は過少雇用の状態にあると考えられる。
イ 需給ギャップのプラスが拡大しているとき、物価はディスインフレーションの状態にあると考えられる。
ウ 需給ギャップのマイナスが拡大しているとき、景気は後退していると考えられる。
エ 需給ギャップは、(潜在GDP-実際のGDP)/実際のGDP によって計算される。
需給ギャップ=実際のGDP-潜在GDP
または、需給ギャップ=(実際のGDP-潜在GDP)÷潜在GDP
潜在GDPとは、一国の生産要素(労働力や機械設備など生産活動に使用されるもの)をフル活用した場合に実現する生産量(=GDP)であり、潜在総供給力を表します。
実際のGDP(総需要)>潜在GDP(潜在総供給力)のとき実際GDP-潜在GDPのインフレギャップが生じており、実際のGDP(総需要)<潜在GDP(潜在総供給力)のとき潜在GDP-実際GDPのデフレギャップが生じている、といいます。
オークンの法則とは失業率と実質GDP成長率における負の相関を示したものです。実質GDPが拡大すると、企業の労働需要が増加するために失業率が低下するとする法則です。
ディスインフレーション(ディスインフレ)とは景気循環の過程で、インフレーションは抜けたものの、まだデフレーションになっていない状態を表します。
景気循環の過程で、デフレーションは抜けたものの、まだインフレーションになっていない状態をリフレーション(リフレ)といいます。
需給ギャップがプラスのときは、実際のGDP>潜在GDPですから、好景気の状態です。従って、失業率は低く雇用が拡大している状態ですので雇用市場は過少雇用という記述は不適切です。
消費の理論 【平成23年 第3問】
消費の決定に関する説明として、最も不適切なものはどれか。
ア 倹約のパラドクスでは、美徳とされる倹約の推奨が経済全体では消費支出とGDP の減少を引き起こすと考える。
イ 消費の習慣仮説では、景気の後退局面においても、消費の減少に対して歯止めが作用すると考える。
ウ 絶対所得仮説では、1回限りの減税によって変動所得が増加しても消費は一定にとどまると考える。
エ ライフサイクル仮説では、生涯所得の増加が消費の増加を引き起こすと考える。
消費の習慣仮説とは、消費は過去の所得水準や、消費習慣に影響を受けるとする考えです。例えば、過去に大きな所得を得ていた人が、所得が下がった場合に、消費を下げずに維持する場合があります。これをラチェット効果(歯止め効果)と呼びます。
絶対所得仮説とは、ケインズ型消費関数のことです。ケインズ型消費関数は、消費は今期の所得に比例するという考え方のため、減税により変動所得が増加した場合は消費量も増加します。
恒常所得仮説では、消費者が得る所得を「恒常所得」と「変動所得」に分けて考えます。
恒常所得は、生涯を通じて毎期に平均的に得られる所得です。変動所得は、一時的な要因で毎期変化する所得です。恒常所得仮説では、「消費は恒常所得によって決められる」と考えます。よって、1 回限りの減税によって変動所得が増加しても消費は一定であると考えます。
ライフサイクル仮説では、「個人の今期の消費は、今期の所得ではなく、一生の間に得られる所得によって決められる」と考えます。
問題 13 等価定理 【平成25年 第8問】
政府は一時的な減税を行うのと同時に、公債を発行するものとする。家計が生涯所得に依存して消費を決定し、また子孫世代のことを考慮に入れる場合、このような公債発行が家計行動に与える影響として、最も適切なものはどれか。
ア 家計に流動性制約がある場合、現時点の貯蓄を増加させる。
イ 家計は公債が償還される将来を見通して行動するため、現時点の消費を増加させる。
ウ 公債償還時に借換債の発行が行われ続けることが予想されると、現時点の貯蓄を減らす。
エ 公債の償還が自らの生存中にないことが分かっている場合、現時点の消費を減らす。
貯蓄(遺産)を考慮すると、公債発行と増税の経済効果がまったく等しいことになることを、リカード=バローの等価定理といいます。
公債が消費者にとって純資産とは見なされず、課税と公債発行が同じ効果となるわけです。
家計に流動性制約がある場合、現時点の貯蓄を増加させることはできません。
公債償還時に借換債の発行が行われ続けることが予想される場合、公債の償還が先送りされるために、子孫世代のことを考慮に入れると、現時点の消費を減らし、貯蓄を増やすことになります。現時点の貯蓄を減らすことにはなりません。
投資の理論 【平成22年 第4問】
投資決定の説明として、最も適切なものの組み合わせを下記の解答群から選べ。
a ケインズの投資理論では、投資の限界効率が利子率を下回るほど、投資を実行することが有効になると考える。
b 資本のレンタル料が資本の限界生産物価値を上回る場合、投資が増加し、資本ストックの積み増しが生じる。
c 投資の加速度原理では、生産拡大の速度が大きくなるほど、投資も拡大すると考える。
d トービンのq理論では、株価総額と負債総額の合計である企業価値が、現存の資本ストックを再び購入するために必要とされる資本の再取得費用を上回るほど、設備投資が実行されると考える。
[解答群]
ア aとb
イ aとc
ウ bとc
エ bとd
オ cとd
資本のレンタル料とは、資本ストックを1 単位追加するのにかかる費用のことです。
資本の限界生産物価値とは、資本を1 単位追加したことによって得られる収入の追加分です。
資本のレンタル料が資本の限界生産物価値を上回る場合、費用が収入を上回ることになるので、資本ストックの積み増しは行わないと考えられます。
投資の加速度原理では、「投資は、国民所得の変化分に比例して変動する」と考えます。
投資の加速度原理によれば、国民所得が大きく増加、すなわち生産拡大の速度が速い年には、企業は沢山投資をします。国民所得が増加しなかった、すなわち生産拡大の速度が遅い年は、企業は投資を減らします。
トービンのq理論では、投資を検討するとき「企業の株式市場での評価」と「現存の資本ストックを買い換える費用」の2 つをもとに判断します。「企業の株式市場での評価」は、株価総額と負債総額の合計で表されます。
トービンのq理論では、株価総額と負債総額の合計が現存の資本ストックを買い換える費用を上回るとき、投資を実行すると判断します。逆に、株価総額と負債総額の合計が現存の資本ストックを買い換える費用を下回るときは、資本ストックを減少させる投資となるため、実行しないと判断します。
貨幣理論と金融政策 【平成19年 第8問】
貨幣理論および金融政策に関する説明として、最も適切なものはどれか。
ア 貨幣数量説と完全雇用を前提とすれば、名目貨幣供給が増加しても実質貨幣供給は不変であるが、利子率の低下を通じて投資を刺激する。
イ 貨幣数量説と完全雇用を前提とすれば、名目貨幣供給の増加はそれと同率の物価の上昇を引き起こし、貨幣の中立性が成立する。
ウ 公定歩合の引き下げ、売りオペ、外貨準備の増加はハイ・パワード・マネーの増加を通じて貨幣供給量を増加させる。
エ 流動性選好理論では、所得の増加によって貨幣の投機的需要が増加すると考える。
オ 流動性選好理論では、利子率の低下によって貨幣需要が減少すると考える。
完全雇用を前提とすると、実質国民所得は一定となります。そのため、貨幣数量説によれば、名目貨幣供給が増加しても、同じ比率で物価水準が上がるだけで、利子率の低下もありません。
完全雇用を前提とすると、名目貨幣供給が増加した場合、同じ比率で物価水準が上昇します。
流動性選好理論は、利子率と貨幣の投機的需要の関係に関する理論であり、所得と貨幣の投機的需要については触れていません。
流動性選好理論では、利子率が低くなった場合、人々は債権よりも貨幣を持とうとするため、貨幣は需要超過となります。
マンデル・フレミングモデル 【平成27年 第10問】
今日、経済政策の効果は、開放経済の枠組みで考える必要がある。
下図は、開放経済におけるマクロ経済モデルを描いたものである。小国開放経済、不完全資本移動、変動相場制度、物価硬直性、期待外国為替相場一定を仮定する。図中のBP曲線は、国際収支を均衡させる、GDPと利子率との組み合わせを表したものである。
貨幣量の拡大に伴う効果に関する記述として、最も適切なものを下記の解答群から選べ。
[解答群]
ア 貨幣量の拡大はLM曲線を下方にシフトさせ、純輸出を増加させるものの、民間投資支出の減少を通じてGDPを減少させる。
イ 貨幣量の拡大はLM曲線を下方にシフトさせ、GDPを増加させるものの、クラウディングアウトを発生させる。
ウ 貨幣量の拡大は自国金利が相対的に低下することで内外金利差を生み出し、自国通貨を減価させる。
エ 貨幣量の拡大は自国通貨を増価させ、純輸出を減少させる。
「期待外国為替相場一定」の仮定とは、将来の為替レートは現在と変わらないと予測することです。
貨幣量の拡大はLM曲線を下方にシフトさせるという点や、純輸出を増加させるという点は正しいです。ただし、貨幣量の拡大はGDPを増加させます。
貨幣量の拡大はLM曲線を下方にシフトさせ、GDPを増加させるという点は正しいです。ただし、クラウディングアウトを発生させるという記述は誤りです。クラウディングアウトとは、政府支出の拡大により利子率が上昇し、民間投資が抑制されることです。政府支出が拡大されていないわけですから、クラウディングアウトは発生しません。
貨幣量の拡大は自国金利が相対的に低下することで内外金利差を生み出し、自国通貨を減価させます。
自国通貨の減価、すなわち、自国通貨安外国通貨高は、自国の純輸出を増加させます。
ISバランスアプローチ(貯蓄投資バランス) 【平成30年 第6問】
マクロ経済循環では貯蓄と投資の均衡が恒等的に成り立つことが知られており、これは「貯蓄投資バランス」と呼ばれている。貯蓄投資バランスに関する記述として、最も適切なものはどれか。
ア 経常収支が黒字で財政収支が均衡しているとき、民間部門は貯蓄超過である。
イ 経常収支の黒字を民間部門の貯蓄超過が上回るとき、財政収支は黒字である。
ウ 国内生産よりも国内需要が少ないとき、経常収支は赤字である。
エ 国内の純貯蓄がプラスであるとき、海外の純資産は減少している。
X = (S - I) + (T - G) ⇒ 純輸出 =貯蓄超過 + 財政黒字
ここで、Xは純輸出、Sは貯蓄、Iは投資、Tは税金、Gは政府支出です。
貯蓄Sから投資Iを引いたものが正の値の場合を「貯蓄超過」、税金Tから政府支出Gを引いたものが正の値の場合を「財政黒字」と呼んでいます。
経常収支(黒字) =純貯蓄 + 財政収支(ゼロ)は、純貯蓄が黒字のときに成り立ちます。
ISバランスは、財政収支=経常収支-純貯蓄、と変形することができます。
輸出は国内の生産が国内の需要を上回るため輸出されます。輸入は反対に国内の生産が国内の需要を下回るために輸入されます。従って、国内生産よりも国内需要が少ないときは、輸出超過となるため経常収支は赤字ではなく、黒字となります。
ISバランスは国内の純貯蓄、財政収支、経常収支の関係を説明するもので、国内の純貯蓄と海外の純資産との関係を説明するものではありません。
BP曲線 変動相場制における政策の効果 【平成30年 第9問】(設問1)
下図において、IS曲線は生産物市場の均衡、LM曲線は貨幣市場の均衡、BP曲線は国際収支の均衡を表す。この経済は小国経済であり、資本移動は完全に自由であるとする。 この図に基づいて、下記の設問に答えよ。
(設問1)
変動相場制の場合における政府支出増加の効果に関する記述として、最も適切なものの組み合わせを下記の解答群から選べ。
a 為替レートは増価する。
b GDPは増加する。
c 純輸出の減少が生じる。
d 民間投資支出の減少が生じる。
〔解答群〕
ア aとc
イ aとd
ウ bとc
エ bとd
変動為替相場制においては、金融政策は有効ですが、財政政策は無効である点をおさえていることが必要となります。
a 為替レートは増価する、c 純輸出の減少が生じる、が適切な記述となります。
(設問2)
変動相場制の場合における貨幣供給量増加の効果に関する記述として、最も適切なものの組み合わせを下記の解答群から選べ。
a 為替レートは増価する。
b GDPは増加する。
c 純輸出の増加が生じる。
d 民間投資支出の増加が生じる。
〔解答群〕
ア aとc
イ aとd
ウ bとc
エ bとd
GDPは増加する、c 純輸出は増加が生じる、は適切な記述となり、a 為替レートは増価する、d 民間投資支出の増加が生じる、は不適切な記述となります。
