与件文
A社は、主に砂糖・油・小麦粉などの食品原材料を取り扱う一次問屋として事業を拡大してきた。現在、地方都市にある本社を中心に、国内11ヵ所の事業所ネットワークを通して、常温で保存できる食品原材料の供給を行っている。A社の資本金は8,000万円、近年の年商はおよそ170億円で、経常利益は年によって多少ぶれがあるものの2~3億円と、ここしばらく増収増益傾向で推移している。A社の売上高に占める割合が最も大きな品目は砂糖である。砂糖業界に限ると、業界の企業規模は相対的に小さく、取引している二次問屋が1,000軒を超えるA社は国内でトップクラスに位置づけられる。社員数は125人で、 定年を目前にしたあるいは定年延長した社員の割合が高く、40~50歳代の社員が少ないために、高齢の社員が退職した後、中心となるのは30歳代である。
代表取締役のA社社長は、大学卒業後8年の銀行勤務を経てA社に入社した。首都圏の支店に配属され、東北、甲信越地域を中心に営業を担当した。40歳の時、父から引き継ぎ社長に就任した。先代は、すでに相談役に勇退している。
伝統的に砂糖商社の商売は、生産者と売り手の取引を円滑に進めることで手数料を得る商売で、東京・大阪・名古屋などを拠点に、そこから代理店に対して商品を流通させていた。30年ほど前まで食品原材料商社は、相場が下がれば買い取って、上がれば売るというタイミングを計ることが重要で、それが一次問屋の役割であり、それさえうまく運んでいれば商売は安泰であった。しかし、現在ではそうしたビジネス・スタイルは一変している。
従来は、二次・三次問屋のオーナー同士とのつきあいを通じて作られた人的ネットワークが重要で、地区ごとに「A社共栄会」といった親睦組織を設けて、年2回の温泉旅行を実施するなどオーナー同士のつながりを深めていた。A社のこうしたネットワークが盤石で大規模であったことが、業界で優位性を確保することができた要因の1つであった。しかし、 食品原材料業界も顧客の価格志向が強くなり、ドライな感覚でビジネスをする顧客が多くなってきた。さらに、 配送の頻度や便宜性など先方の細かな要求を充足することが求められるようになってきた。加えて、 砂糖業界での企業間競争も激しくなっている。かつては、ナショナル・ブランドの大手食品メーカーが大手商社の領域であった。しかし、近年、大手商社が参入することのなかった中堅規模の食品メーカー市場にも大手商社が参入するようになってきた。大手商社は物流機能を充実させ、これまで培ってきた二次・三次問屋とのネットワークを強化すると同時に、末端の顧客まで直接攻めるようになってきた。A社でも首都圏の大規模市場におよそ10億円を投資して、支店と近隣の倉庫を統合した「倉庫兼物流センター兼支店」を構えた。A社はまた、近年、地方の有力店との連携を強化している。というのも、地方の有力店の経営が厳しさを増し、そうした取引先から救済を求められているからである。後継者問題で廃業に追い込まれたり、あるいは客のビジネスの進化についていけず機能不足に陥っているなどの問題を抱える有力店の有効的買収である。結果的に、こうした動きによって物流拠点を革新して効率性を高め、取引先だけでなく地元の末端顧客にとっても利益をもたらしている。A社が救済のために買収した二次問屋には、トップマネジャーこそA社から転籍させるが、そこで雇用されている従業員は、それまでと同じ条件で雇用することにしている。
こうした経営環境の変化の中にあっても、A社は、長年にわたって伝統的な家族主義的経営を掲げて年功序列型の給与体系を適用してきた。食品原材料を取り扱う商売に往々にして見られることであるが、ある程度の商圏さえ持っていれば、あまりあくせくしなくともきちんと売り上げがあがってきたからである。しかし、 取引先の倒産や転廃業が頻発する中で、ある程度新陳代謝を促していかないと存続すら危ういという不安があって、わずかながらではあるが成果主義的要素を取り入れた。もっとも、月額の生活給部分は年功序列を守り、ボーナスの部分に成果を反映させるといった程度のものである。他方、A社のもうひとつの動きは、先代がスタートさせた砂糖の自社加工の強化である。砂糖や小麦粉の仕入れルートの強みを活かして、事業領域を広げようという考えである。現社長の代になってからも、増員、さらなる設備の導入など経営資源を投入している。大手製糖メーカーが年間100万本以下では対応しないようなスティックシュガーや粉糖などの事業で、中小喫茶店チェーンなどをターゲットに10万本程度の少量でも対応するといったニッチな市場を狙った事業である。大手メーカーではリスクが高くコスト面でも合わないことから、以前は全国に中小加工場が事業展開していたが、衛生基準や品質を確保するためにユーザー側が自ら設備や管理を充実させざるを得なかった。そこに、A社がビジネスチャンスを見いだして新規事業として取り組んだのである。現在、この新規事業の売り上げは5%を占めている。
変化が激しく厳しい経営環境の中で、A社は商社である以上、基本的にはどのような商材でも扱うことを前提にしている。しかし、 主力事業として食品原材料供給を中心におくのは、食品は市場から消えることはないという考えからである。その一方で、A社では売り上げを伸ばしていくために、食品原材料以外の商材を取り扱っていくことを真剣に検討し始めているのも事実である。
与件文読込9分。
第1問(配点30点)A社が主力事業としている砂糖業界の環境変化と事業展開の変容について、以下の設問に答えよ。(設問1)過去に成功してきた事業展開の中で、A社のような一次問屋にとって二次・三次問屋とのネットワークの構築が強みとなった理由について100字以内で説明せよ。
売り買いのタイミングを計るために二次・三次問屋との密接な関係が重要であったこと、一度取引関係を確保できれば安泰であったことも記載すべきでした。
解答構成記入7分、配点15点中自己採点7点。
(設問2)これまでの事業展開を継続することができなくなった経営環境の変化は、どういったものであるか。A社の取り扱う食品原材料という商品特性を踏まえて、100字以内で説明せよ。
論点を全て盛り込むことが出来ました。
解答構成記入7分、配点15点中自己採点14点。
第2問(配点30点)転廃業を迫られている地方の二次問屋に対してA社が積極的に進めている友好的買収に関連して、以下の設問に答えよ。(設問1)A社は、友好的買収を積極的に推し進めているが、その目的と効果について100字以内で説明せよ。
目的に地方のネットワークを維持し大手商社等の競合に対抗することも記載すべきでした。
解答構成記入12分、配点15点中自己採点12点。
(設問2)A社は友好的買収を進める際に、従来の従業員を継続して雇用することにしている。そのメリットとデメリットについて100字以内で説明せよ。
メリットとして、A社にとって少ない年代の社員を確保できること、地方のネットワークを維持できること、デメリットとして、同じ組織の中で労働条件の不公平感が生まれことも記載すべきでした。
解答構成記入13分、配点15点中自己採点10点。
第3問(配点20点)家族主義的経営を掲げるA社でも、近年の経営環境の変化の中で、成果主義的要素をわずかながら人事制度に取り入れるようになった。より成果主義的要素を強化した人事制度にすべきかどうかについて、中小企業診断士としてA社社長からアドバイスを求められた。成果主義的要素を強化した際のA社にとってのメリットとデメリットをどのように考えるべきかについて、100字以内で述べよ。
成果主義についての一般的なメリットデメリットを記載してしまいましたが、今後中心となる 30 歳代社員のさらなる意欲向上を図り組織の新陳代謝が促されること、デメリットは個人主義が強くなり社員間の協調を重視する家族主義的経営が維持しにくくなることとA社具体例にして記載すべきでした。
解答構成記入14分、配点20点中自己採点8点。
第4問(配点20点)食品原材料商社であるA社が事業拡大のために、食品原材料以外の商材に手を延ばすべきかどうか、中小企業診断士としてA社社長からアドバイスを求められた。どのようなアドバイスをするかについて、100字以内で述べよ。
相乗効果や補完性の面から記載しましたが、プラス面とマイナス面で検討すべきでした。
ただ、手を延ばすべきか否かは論理構成筋が正しければどちらでも正解になると考えています。
解答構成記入14分、配点20点中自己採点18点。
読込&全記入77分(3分余裕)、自己採点69点。
この調子であれば事例1は何とか合格出来そうな気がしてきました!
与件文
B社は、地方都市であるI県Y市とその周辺地域に8店舗を展開する食品スーパーマーケットである。資本金3,000万円、年商は65億円である。現在の従業員はパート、アルバイトを含めて250名である。B社の創業は1914年(大正3年)、現社長の曽祖父乾物屋を開業し、やがて野菜、鮮魚、精肉など、取扱商品の品揃えを充実させ、食品全般を商う食品スーパーへと発展した。その後、B社の経営は同族間で代々引き継がれ、1990年までに6店舗を擁する中堅スーパーとなった。その間、 I県全体に大きく展開する地元の大型スーパーや全国規模の大手スーパーなどとの価格競争に巻き込まれ、多店舗展開がコスト増につながるようになり、次第に利益率の低下を招き、1995年度には大幅な赤字となってしまった。また、従業員の能力や成果も十分に評価されず、職場の士気にも影響を及ぼしていた。その熾烈な競争環境にさらされていたその年に、現社長が父親からB社の経営を引き継ぐことになった。
現社長は、早速B社の経営再建に着手し、徹底した組織内部の制度改革や環境の改善、取引先の見直しなどを行った。まず、同族経営にありがちな肥大化した取締役陣に対して、身内とのあつれきを覚悟で退任を要求し、経営陣のスリム化を図った。また、パートを含めた従業員に対しては、その能力を尊重した透明感のある昇給制度を導入し、給与体系も見直した。さらに、 優秀なパート従業員に対しては、正社員への登用制度を作り、社員と区別なく能力を評価した。
顧客とのトラブル対応については、各売り場責任者と一緒に基本的ガイドラインを作成し、それに沿って各売り場責任者に顧客対応の意思決定を任せた。また、 各売り場に毎月予算を与え、売り場ごとのイベントを考えてもらうようにした。このことで各売り場に活気が溢れ、従業員の結束が強くなった。さらに現場の従業員から発信されるつぶやきやアイデアは積極的に取り入れ、それは、いつでも現社長と直接メールでコミュニケーションが取れるような関係を構築することで可能となっている。従業員を大切にすることによって、従業員からB社が愛される関係を築いてきた。
さらに、 創業当時からの長い付き合いのある仕入先も含めて、今までの人間関係の視点ではなく顧客視点に立ち、現在の仕入先の精査を行い、その再構築を図った。
曽祖父の代より、100年近く地元で生かされてきたB社であるからこそ、現社長は「経営の原点は、地元への感謝から」という経営哲学を持っていた。B社は、まず地元の中高年女性に注目し、売り場づくり、品揃えを工夫した。さらに、パートを含む従業員も地元の中高年女性を積極的に採用した。
同時に、 現社長は高齢者の単身世帯への宅配サービスを始めたが、ただ単に注文の品を届けるだけではなく、高齢者の不安、不便さの悩みを解決するために、B社にできることは何でも引き受け、御用聞きのサービスもするようにした。高齢者の単身世帯への訪問は、「安否確認」という別の役割を果たすことにもなった。このようなサービスを通して、B社はさらに地元に深く根付いていくようになった。
こうした経営努力によって、B社は単年度ごとに少しずつ収支のバランスが改善されるようになった。現社長が経営を受け継いでから2005年までに2店舗を増やし、安定した利益を確保できるようになった。さらに、標準化された顧客対応ではなく、B社だからできる顧客対応を考えた。前社長の代より既に導入していた、買物100円で1ポイント(1ポイントは1円)付与する、「Bポイントカード」の機能を拡大して、顧客との絆づくりを強化した。
現社長はもともとエコ活動に関心を持ち、使用済みペットボトル(廃ペット)やプラスティック容器などを自主回収して、業者への売却益を地元自治体に寄付していた。この売却益の収支報告は、B社のホームページ上に公開されている。さらに、地元自治体に協力して、B社の各店舗の入口近くに資源ゴミの集積所を無償で設置し、地元の顧客もこれを利用できるようにした。
もともとY市の郊外は畑の多い地域であった。これまで生ゴミは畑や庭に埋めたり、焼却されることが多かったが、高齢化による農業世帯の減少と都市化の進展により、家庭で処理できない生ゴミが急に増えてきた。一方、行政コストは削減され、Y市やI県下の多くの市町村では専用のゴミ袋を有償で市民に購入してもらう方式で、ゴミの回収の有料化が開始された。
現社長は、生ゴミのリサイクルに着目した。生ゴミを顧客から無料で引き取って堆肥化し、契約農家に肥料として提供し、有機野菜を生産してもらうという、生産から消費を循環するシステムを考案した。手始めに旗艦店で生ゴミを処理・堆肥化する機械を購入し、それを店頭の資源ゴミの集積所の隣に設置した。他の店舗では従業員が生ゴミを受け取り、回収して旗艦店まで運ぶこととした。堆肥は契約農家に無償で提供され、農家が栽培する有機野菜を店頭で販売した。
顧客の生ゴミの持ち込みに対して、現社長は新たに「グリーンポイント」という制度を考案し、そのポイントを地元自治体に還元することにした。生ゴミを回収するごとに、2ポイント(1ポイントは1円)「グリーンポイント」が発生し、この「グリーンポイント」はB社の店舗のある地元自治体への寄付となり、緑化事業と公園整備に使われる。
旗艦店での「グリーンポイント」の集計は、顧客が生ゴミを持ち込むときに自分の「Bポイントカード」を生ゴミ処理機構の「ポイント集計表」に差し込み、処理機の秤に生ゴミを置くとポイントが表示され、生ゴミ投入口が開くようになっている。処理機の置いていない店舗では、「ポイント集計機」だけ設置され、従業員に渡す時に「ポイント集計機」にカードを差し込むことになる。ちなみに、生ゴミの処理能力の問題もあり、ゴミの持ち込みは「Bポイントカード」1枚につき、1日1回に制限している。
現社長は、さらにB社でレジ袋の有料化を行い、顧客から集めたその代金(原価の2円)も「グリーンポイント」として蓄積し、これも自治体への寄付としている。この「グリーンポイント」の寄付報告は、廃ペットと同様に、B社のホームページ上に公開されている。
また、 マイバッグを持って、レジ袋を辞退する顧客に対しては、「Bポイントカード」に買物のポイント以外に2ポイントを還元している。レジ袋の辞退率は年々増加し、70%を超えるまでになった。
与件文読込9分。
第1問(配点10点)B社の現社長は、経営再建策の1つとして、仕入先の精査を行ったが、具体的にどのようなことを実施したと考えるか。80字以内で答えよ。
価格の見直しのみならず、顧客視点から品揃えを見直して、取扱商品および仕入先の絞り込み、コストの視点から仕入先の切り替えの記載も必要でした。
構成&記入7分、配点10点中自己採点2.5点。
第2問(配点30点)大手スーパーなどへの差別化として、B社の現社長は2つのターゲット・セグメントを設定した。そこでB社が採用した戦略は各々のターゲットにどのような便益を与えようとしたのか。それぞれのセグメントごとに100字以内で答えよ。
解答欄が2つあることに気づかず記入してしまい、書き直しするミス発生!
1つ目は地元の中高年女性をターゲットにして地元の中高年女性を積極的に採用したは正解出来ましたが、売り場や品揃えを工夫が必要でした。
構成&記入27分、配点30点中自己採点26.25点。
第3問(配点10点)B社の現社長は、従業員の能力を引き出すためにインターナル・マーケティングを展開した。実際にどのようなインターナル・マーケティングを行ったのか。50字以内で2つ答えよ。
後年の過去問で出たインターナル・マーケティングだけに間違わないようにしました。
インターナル・マーケティングとは、企業が従業員に対して行うマーケティングのことであり、従業員を企業内部の顧客と位置づけて従業員満足度を高め、士気を高めようとする活動のことです。
売り場責任者や従業員に対して行った「施策やコミュニケーション」についてだけでなく、パートも含めた従業員に対して、その能力を引き出すべく B 社が導入した「制度」についても記述すべきでした。
構成&記入9分、配点10点中自己採点5点。
第4問(配点20点)B社の現社長は「Bポイントカード」の機能を拡大した。それは顧客にどのような便益を与えようとしたのか、50字以内で2つ答えよ。
記入に利便性と快適さ、周辺環境の改善と顧客のエコ活動に対する利益、といった表現工夫があれば良かったです。
構成&記入7分、配点20点中自己採点10点。
第5問(配点30点)B社の現社長がエコ活動を続けようとしているのは、B社の経営上、どのような効果を狙っているのか。2つの視点から具体的にそれぞれ100字以内で説明せよ。
対競合の視点と、 顧客との関係の視点から顧客ロイヤルティを高める効果の視点で記載すべきでした。
また、顧客との関係の視点について、「顧客との絆づくりの強化」という与件文中に記述されているフレーズを使用して、解答の根拠を厚くすべきでした。
構成&記入10分、配点30点中自己採点20点。
読込&全記入77分(3分余裕)、自己採点53点。
今ひとつ点数が伸びませんでした。知識ではなく時間でもなく、論点漏れを防ぐのも課題です。